
聴き流すことなどできない。彼の歌はどうしようもなく心に居座り続けるのだ
About KUMAMI by Junichi Uchimoto
聴き流すことなどできない。彼の歌はどうしようもなく心に居座り続けるのだ。
ピアノの音色と奏でられるメロディは水面波のように広がり、繊細な声で歌われる言葉は時に突き刺さり、 時にじんわり沁み込んでいく。 刺さった言葉は棘のようにチクッと痛く、簡単には抜けない。 その痛みによって、彼の歌を聴いた者たちは気づくことになる。目をつぶって済ませようとしていたのは間違いだったと。見ないようにしていたところをしっかり直視することでしか前には進めないのだと。 KUMAMI。1984年生まれ、福岡出身のシンガー・ソングライター。「クラシックと昔のアメリカン・ミュージックが日替わりで流れている」家庭に育ち、幼い頃から「鼻歌で曲を作って」楽しんでいた。 クラシック・ピアノを始めたのは7歳。以来、弾くのをやめたことは一度もない。 個性の強さと頑固な性格から周囲にはとけ込めなかった。「協調性がないんですよね。ただ、何かを表現するってことだけに喜びを感じてました。小学生の高学年ぐらいからずっと」。 理解者は少なかった。が、「普通の生き方は嫌だと考えていたから、しょうがないと思ってました。きつかったけど、その籠った感じが爆発して表現になるのならいいやって」。 音楽と映画の世界に浸かり、始めは「映画のサントラを作る人になりたかったので、インストゥルメンタルの曲を作り溜めていたんです。 自分が勝負できるのはメロディだと思っていたから。それは今も変わりません」。 しかし、友人の結婚式で頼まれて自作曲(「悲しい時、楽しい時」)を歌ったことから全てが転がりだした。KUMAMIは歌で伝える喜びを発見し、また彼の歌を聴いて心を打たれた人たちが自主的にバックアップを申し出た。05年には「1回きりのつもりで」ライヴを行ない、その後、1ヶ月ほどNYへ。地下鉄で歌っている人たちの音楽に対する純粋な向き合い方にふれ、「音楽で自分をわからせたいという気持ちが強くなりすぎてたけど、そこでスッとリセットされた。ただ好きな音楽を素直にやること自体が表現なんだなって」。 帰国後に行なった2度目のライヴにも手応えを感じ、以降、福岡では定期的に2時間に及ぶライヴを続けている。映像と歌詞をリンクさせるなど、世界観のトータルな表現を試行錯誤しているところだ。 About 『Vital』
そんなKUMAMIの初のスタジオ録音盤が、7曲収録のミニ・アルバム『Vital』。「勝負できるのはメロディ」という先の言葉通り、まずはメロディの美しさと普遍性に心が動かされる。
内省的な歌をうたう歌手という印象を抱く人も多いだろうが、メロディは外に開かれ、「人と繋がりたい」という意思を反映してもいる。 表題曲を除くと、サウンドはごくシンプルで、余計な装飾は一切ない。ピアノと歌に被さるストリングスのみがKUMAMIの感情の動きを際立たせている。 実は打ち込みのダンス・ミュージックなども好きで、いずれはそうしたアプローチにもトライしたいそうだが、ここでは表題曲の「Vital」にその片鱗がのぞく程度で、基本的には引き算の美学に貫かれている。ヴォーカルに関しては、「聴いている人が遠くならないように」意識した。「だから耳元で歌っているみたいでしょ?(笑)」。 歌詞に関しては説明するだけ野暮で、聴く人それぞれがそれぞれの思いで自分に重ねられるものであると書くに留めておく。 が、ひとつだけ。「EXPRESS168」で歌われる「灰色の空と灰色のコンクリートの間に産まれた理由を探しに行くんだよ」という一節が、僕には彼の"音楽をやっていく上での決意表明"のようなものであり、ひいては"生きていく上で今、歌わずにはいられなかったこと"にも思えたので、その灰色が象徴するものについてあえて聞いてみた。彼の答えはこうだ。 「白黒つけるっていう言葉があるけど、白とも黒ともつけられない人はたくさんいて、その中でみんな自分を探している。KUMAMIもそう。灰色は中途半端だけど、"中途半端でいいじゃない?!"って言い切れるし、そこをちゃんと歌っていきたいんです」 白と黒。美と醜。ポジとネガ。明と暗。男性性と女性性。希望と絶望。そうした両極の間を肯定する強さが、KUMAMIの歌には、ある。
■音楽ライター内本順一さんPROFILE
プリンス、ノラ・ジョーンズ、シェリル・クロウ、クリスティーナ・アギレラ、コリーヌ・ベイリー・レイ、クレイグ・デイヴィッド、Ne-Yo、リアーナ、スティング、ステイシー・オリコ、シール、リンジー・ローハン、カーディガンズ、アース・ウインド&ファイアー、アシャンティ、ブランディ、インディア・アリー、ジュエル......といったポップ~R&B系アーティストのCDライナーノーツを執筆。 「Grazia」「_ates」「ADLIB」ほか、ファッション誌・情報誌などでCD紹介やアーティスト・インタビューを担当。 内本順一さんのブログ http://ameblo.jp/junjunpa/ |
